双翅目(ハエ目、Diptera)

Chrysotus sp.
Chrysotus sp. (Dolichopodidae)

双翅目(そうしもく、Order DIPTERA)は、2枚の翅をもつ昆虫のグループです。多くの昆虫は4枚の翅を持ちますが、双翅目ではそのうち後翅にあたる2枚が平均棍(へいきんこん、Halter)という器官に変化しています。そのため、野外で見かける虫のなかで、2枚の翅と平均棍を持つ昆虫は双翅目に属すると判断出来ます(ちなみに漫画などで4枚の翅をもつハエらしき昆虫が登場することがありますが、双翅目ではなく別のグループに属する昆虫と思われます)。

 

双翅目に属する昆虫は世界中から約12万種が記録されており、甲虫目、鱗翅目(チョウ、ガ)、膜翅目(ハチ、アリ)に続いて巨大な分類群です。しかしこれは現在までに記載された種数で、実際にはまだ名前が付いていない種(未記載種)があと12万種はいると推定されています。つまり世界の双翅目のうち半分には名前が付いていないということで、2種類のハエを見つけたらうち1種は名無しという計算になります。もちろんそこまで単純ではありませんが、普通に見られる種でも名前が確定していないなんてこともよくあります。

 

双翅目は、ハエやアブと呼ばれる種が属する短角亜目(Brachycera)、カやユスリカ、ガガンボなどと呼ばれる種が属する長角亜目(糸角亜目、Nematocera)に大別されます。その違いは、触角の節数で3節以下(短角亜目)か4節以上(長角亜目)かでほとんどは見分けられます(一部例外あり)。


ちなみに○○バエという名前でも長角亜目の種もいるので注意が必要です(チョウバエなど)。また「ハエ」と「アブ」は分類学的に明確に分かれたグループの名前ではなく、和名に○○アブ、○○バエとついている種でも、グループ的には全然違ったりしますので当てになりません。

例: アシナガバエ、オドリバエ→直縫短角群(いわゆるアブ類)

ハナアブ、アタマアブ→環縫短角群(いわゆるハエ類)

 

短角亜目のほうが多様性が高く、約140科80,000種が記載されています。一方長角亜目は約77科33,000種が知られています(科数には化石でしか発見されていないものを含む)。

 

日本の双翅目は1989年時点で、短角亜目、長角亜目をあわせて5,298種が記録されており (平嶋, 1989)、2014年に出版された目録では7,658種と大幅に種数が増えました(日本昆虫目録編集委員会, 2014a; 2014b)。しかしまだ数千種単位で未知の種がいると考えられています。近所で採集した種が新種として記載できる、というのも十分有り得る話です。

 

  その中でも日本で比較的分類学的な研究が進んでいるのは、害虫であるカ科(114種、解明度ほぼ100%)やニクバエ科(約110種、解明度約95%)、クロバエ科(約60種、解明度約95%)、それに実験動物として名高いショウジョウバエ科(約300種、解明度約90%)などだけで (篠永 2003)、あとはまだまだ名無しの種がゴロゴロしています。

 逆に、ユスリカ科、ガガンボ類(ガガンボ科、ヒメガガンボ科など)、クロバネキノコバエ科、オドリバエ科、アシナガバエ科、ノミバエ科、ヤドリバエ科など、分類学的研究が遅れている科も多数あります。


また、多くの種では幼虫やサナギがどのような姿かも不明で、生態がわかっている種は非常に限られます。もちろん各種の分布情報についても不明な点だらけですので、極端な話、家の周りで採集した双翅目をきちっと調べるだけでも新発見になる可能性が高いです。

 

双翅目は日本に数多くいる昆虫愛好家の間でも不人気な方の分類群であり、他の鱗翅目(チョウ、ガ)、甲虫目に比べてアマチュアによる採集がほとんどされていません (篠永 2003)。またプロの双翅目の研究者も日本には10人足らずで、まったく研究者がいない科もあります (篠永 2003)。このペースでは、日本の双翅目をまともに調べられる環境が整うのに何年かかるかわかりません。

 

ぜひ捕虫網にハエやアブが入ったら、捨てずにとっておいて、時間のあるときにじっくり観察してみてください。 もしかしたらそれが新種かもしれません。

 

参考文献

 平嶋義宏監修、九州大学農学部昆虫学教室・日本野生生物研究センター共同編集 1989. 日本産昆虫総目録. 九州大学農学部昆虫学教室, 福岡, 1,767pp.

日本分類学会連合 2003. 第1回日本産生物種数調査 http://research2.kahaku.go.jp/ujssb/

日本昆虫目録編集委員会(編)2014a. 日本昆虫目録 第8巻 双翅目(第1部 長角亜目-短角亜目無額嚢節)櫂歌書房 i-xxxii + 539pp 

日本昆虫目録編集委員会(編)2014b. 日本昆虫目録 第8巻 双翅目(第2部 短角亜目額嚢節)櫂歌書房 i-xiv + 562pp

篠永 哲 2003. 日本産の双翅類は分類学的にどこまで分かっているか. 日本分類学会ニュースレター 3 7-8.

ギャラリー(Flickr)

Apiocera longitudinalis on Verticordia bifimbriata
Apiocera longitudinalis on Verticordia bifimbriata
Apiocera longitudinalis on Verticordia bifimbriata
Apiocera longitudinalis on Verticordia bifimbriata
Apiocera longitudinalis
Dasyrhamphis ater ♀, Le Collet-de-Dèze, Lozère, France
Distelbohrfliege (Urophora cardui), Rurtal bei Sourbrodt, Ostbelgien
Hilara morata - male - Hawes Water_003
Hilara morata - male - Hawes Water_006
Hilara morata - male - Hawes Water_004
Chrysotoxum bicinctum ♂, Rurtal bei Sourbrodt, Ostbelgien
Breitflügelige Raupenfliege (Ectophasia crassipennis) ♀, Rurtal bei Elsenborn, Ostbelgien
Blaue Breitbandschwebfliege (Leucozona glaucia) ♀, Rurtal bei Elsenborn, Ostbelgien
Machimus chrysitis ♂, Barre-des-Cévennes, Lozère, France
Cheilosia carbonaria ♂, Rurtal bei Elsenborn, Ostbelgien
Cryomyia sp. Bee flies on Stylidium pycnostachyum
Cryomyia sp. Bee flies on Stylidium pycnostachyum
Cryomyia sp. Bee flies on Stylidium pycnostachyum
Podolepis gracilis with Hover fly
Sisyromyia rutilia
Helophilus pendulus - "Balck-nosed" tiger hoverfly